Central East Tokyo 2023

誰かが置いた

Contents
 料亭や小料理屋さんの店先に盛り塩が置かれているのを見たことがあるだろう。浄化の意味を持つ塩を円錐や多角錐の形に形成し、軒先や玄関などに置く古来からの風習で、厄除けやげんかつぎなどの目的で設置されているのはご存知の通りだが、ある特定の人々はそういったまじないとは別の視点で眺めているという話を聞いたことがある。
 特定の人たちとは、そのお店に通う常連の旦那衆やお得意さまのことで、彼らにしてみると盛り塩とはそのお店の店主やスタッフの事を思い出す装置になるらしい。雨や風で吹き飛ばされ流されやすい塩だからこそ、綺麗に形取られた塩のオブジェは、一手間かけたという誰かの行為そのものの表れである。人の気配を存分にまとった盛り塩は、上得意のお客さんたちにとって、「おかみさん、今日も元気にやってるんだ」と思わせる仕掛けであり、そこから転じて「また顔出さなきゃな」とお店への再訪を意識するのだという。
 この写真に映るのは、「誰かが置いた植木鉢」である。まじない的な意味は一切ないものの、建物外部の開かれた場所に置かれた植物は、必然的に通行人の目にとまる。その「誰か」とは想像しようもないし、植木を置いた当人としてもただ植物が好きなだけで見られることは意識していないかもしれない。それでもひと癖もふた癖もある植木の配置や植物の選び方を眺めていると、決してのぞくことのできないその建物の内側が、なんとなく滲み出してきているようにも感じられる。伝統的な日本家屋ではプライバシー空間を紙でできた扉で仕切り、鍵すらついていない。そんな曖昧なウチとソトとの関係が、なんとなく路傍の植木鉢から立ち昇ってくるようにも思えるのだ。


Schedule
2023.Oct.23 - 展示継続中 随時鑑賞可


ただ
写真家。1981年神奈川県横須賀市生まれ。
ポートレイトやスチルライフなどの撮影において、書籍や広告、webなど商業写真エリアで幅広く活躍する一方、並行して「都市」や「デジタル写真」そのものをテーマとした作品制作を続けている。いて座のA型。


Map
エトワール海渡ショールーム館 1F外面
東京都中央区日本橋横山町7-2



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